2022年第26週はドイツ人作家ヘルマン・ヘッセの小説『車輪の下で』です。
『車輪の下で』
『車輪の下で』は一言で言うなら、ガリ勉で内気な少年ハンス・ギーベンラートが将来を期待されながらも挫折して破滅するお話です。
中学校や高校、大学で勉強が上手くいかなかったり人間関係で悩んでいる青少年に読んでほしい一冊です。
100年以上も前の外国の作品ですが、学校での苦悩は時代と国を超えた普遍性があると気付かされます。
抜粋
p. 21
心が正しい場所にあり、神を恐れているなら、ラテン語なんて問題じゃないって。うまいことを言うなあ。
p. 25
この部屋で、失われたすべての少年時代の愉しみよりも貴重な数時間を過ごしたこともあった。誇りと陶酔と勝利への意欲に満ちた、夢のように不思議な時間。
p. 41
ハンスにはしばらくのあいだ、一度でいいから彼女と話したり手を取ったりしたいという以上の強い願望はなかった。でもその願いは実現しなかった。彼があまりにも恥ずかしがり屋だったからだ。
p. 63
その代わりにここでは熱心に聖書の批判が行われ、「歴史的存在としてのキリスト」が探求されていたが、これは現代の神学者たちにとって垂涎の的だったが、鰻のように指のあいだをすり抜けていくものだった。
p. 70
昼に家に戻ってきたとき、ハンスはまた頭痛がした。目も痛んだ。森の小道で、太陽に容赦なく照りつけられたからだ。午後の半分を彼は不機嫌に家で過ごしたが、泳ぎに行くとようやくまた元気になった。
p. 77
彼の義務であり国家から委託された仕事とは、うら若い少年の生来の荒削りな力と欲望を制御して根絶し、その代わりに静かで節度のある、国から承認された理想を植えつけることだった。
p. 112
ある強い感情が、幸せそうな、憧れの色に染まった友情の国を地平線に示し、静かな衝動とともにハンスをそちらに引っ張っていった。しかし、内気さが彼を引き止めた。母親不在のまま厳しく育てられた少年の年月のあいだに、誰かに甘えるという才能が彼のなかで退化してしまっていった。
p. 113
まるで内気な少女のように、ハンスは座して、誰かが迎えにきてくれるのを待っていた。自分よりも強くて大胆な誰かが、自分を引っさらい、無理やり幸せにしてくれるのを。
p. 123
ゆっくりとヘルマン・ハイルナーは腕を伸ばし、ハンスの肩をつかんで自分の方に引き寄せたので、二人の顔はすぐ間近になった。それからハンスは不思議な衝動とともに、相手の唇が自分の口に触れるのを感じた。
p. 129
以前の彼はお母さん子だったが、まだ女性を愛するほど成熟していない現段階では、従順な友人が慰め役に回ることになった。
p. 135
「きみはつならない臆病者だよ、ギーベンラート……こんちくしょう!」そう言ってから、小さく口笛を吹きつつ、両手をズボンのポケットに入れて彼は立ち去った。
p. 150
彼は自分の孤独のなかに殉教者としての苦い喜びを見出していた。理解されないことに満足を覚え、情け容赦ない軽蔑を表した修道士の詩文を書いている自分が小さなユウェナリスのように思えた。
p. 161
彼はまるで恋する若者のような状態だった。偉大な英雄的行為だってできる気でいたが、日々の退屈でつまらない勉強はできないのだった。
p. 165
優等生になり将来の総代として他の生徒を見下す理由がなくなってしまったので、高慢だけがみっともなく彼にまとわりついていた。
p. 185
ギーベンラートはもはや生徒の一人ではなく、異端者の一人なのだった。
p. 197
ハンスはもう、そのなかにあれこれ知識を詰め込める容器ではなかったし、さまざまな種を植えられる農地でもなかった。
p. 202
ハンスは彼女を滑稽だと思ったが、かつて彼女を見るたびにどれほど奇妙に甘く、暗く暖かい気持ちになったかを考えると、残念でもあった。
p. 209
レヒテンハイルは言葉を使わずに、例を示したり、そばにいるだけで、釣竿の扱い方や、引いたり緩めたりする瞬間の繊細な感覚、そして緻密な釣りには絶対に必要な、手の不思議な鋭敏さを伝授してくれた。
p. 229
エンマの外見も変化していた。ハンスはもう彼女の顔ではなく、ただ黒くて明るい目や、赤い口、白くとがった歯などを見ていた。彼女の姿は溶けて流れてしまい、彼はその部分部分しか見ていなかった。
p. 230
髪の毛からはほのかな香りがし、緩い巻き毛の影で美しい首筋が暖かく茶色に輝いていた。
p. 231
最もよい指導を受けた青年でさえ、そこを通り抜ける方法を教えてくれる案内人は持たず、自らの力で道と救いを見出すほかはないのだ。
p. 237
困惑し、心のそこから動揺しながら、ハンスは自分が大きな秘密に近づいているのを感じた。それがすばらしいことなのか恐ろしいことなのか彼は知らず、しかし震えながらその両方をすでに予感しているのだった。
p. 240
白い顔が近づいてきた。体の重みで柵が少し外側にたわんだ。ほのかな香りのする髪が、ハンスの額を撫でた。閉じた目の、白くて幅広いまぶたと黒っぽいまつげが、彼の目のすぐ前にあった。おずおずと唇で彼女の口に触れたとき、彼の体を激しい身震いが襲った。彼は震えながら身を引こうとしたが、彼女は両手で彼の頭をしっかりと抱えて自分の顔を彼の顔に押し付け、唇を離れさせようとしなかった。彼女の口が燃えているように感じられた。その口がハンスの命を飲み干そうとするようにしっかりと押し付けられ、貪欲に吸いついているのを彼は感じた。
p. 255
何かが押し寄せてきて、「もっと多く」と叫び、目覚めさせられてしまった憧れの解決と、自分一人では解くことが難しい謎を解明してくれる指導者を求めていた。
p. 256
エンマと一緒のときには欲望に値するあらゆるものと、人生のあらゆる魔法が身近にあったのに、それらがまた陰険に滑り落ちていってしまったように思えた。彼はもはや、彼女がそばにいたときに感じた苦しみや不安のことは考えなかった。もしいま再び彼女を手に入れたら、もう恥じらったりしないで、彼女からすべての秘密をもぎ取り、魔法をかけられた愛の庭に侵入するつもりだった。
p. 283
たくさんこぼしながら、残りを飲み込み、アルコールが火のように食道を通っていくのを感じた。