2022年第24週は川上未映子の『夏物語』です。
『夏物語』
『夏物語』は第138回芥川賞(2007年下半期)受賞作の『乳と卵』の世界を引き継いだ作品です。
『乳と卵』に登場する主人公の夏子、姉の巻子とその娘の緑子が本作品にも登場します。
本作品では、独身の夏子は精子提供を受けて子供を作ることを検討して、精子提供で生まれた人と交流を持ちました。
その過程で、この世界に子供を産み落とすことの意味を考えます。子供が不幸になるなら、いっそ産まないほうが良いのではないかと反出生主義を唱える人物も登場します。
大人になって仕事をして、異性と恋愛をして結婚し、あたたかな家庭で子供を育てる。こんな人生が待っていて幸せになれると考えるのはあまりにもナイーブです。仕事が上手くいかない、異性にモテない、恋愛が破局する、結婚生活が不満だらけ、子供ができない、親子関係が上手くいかない……。ハードルは数え切れません。数多のハードルを乗り越えて理想の人生を手に入れたとしても、手に入れた幸せはすぐに色褪せ、新たな不満が生まれる。あるいは手に入れた幸せはすぐに失われ、後悔が襲う。ここは、皆が幸せになれる世界とはあまりにもかけ離れたいびつな世界です。
本作品は、世界のいびつさをまざまざと読者に突きつけます。そんな世界のもと、物語終盤で夏子はある選択を下し、自分の人生を歩いていきます。その決断に至る過程を本ブログの読者の方々も追体験してみませんか。
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『夏物語』では生殖倫理、反出生主義、貧困、AIDについて書いたけれど、動機は「身体の痛み」に根差す。主人公は自分の気持ちのために、他人の(自分が登場させる子の) 生き死にや痛みを "原理的に軽視しないとできない行為である出産" を選ぶ、そのことを問う小説だと思ってる。
— 川上未映子 Mieko Kawakami (@mieko_kawakami) August 23, 2020