2022年第21週はこちらの5冊。
- 吉本ばなな『キッチン』(1987)
- 山田詠美『ぼくは勉強ができない』(1991)
- 水村美苗『私小説 from left to right』(1992)
- 綿矢りさ『蹴りたい背中』(2003)
- 村田沙耶香『コンビニ人間』(2016)
小説5選
『キッチン』は家族を亡くした同士の大学生男女が寄り添う話。
『ぼくは勉強ができない』は勉強はできないが女の子にはモテる高校生が、高校の勉強重視の硬直した価値観に切り込んでいく話。
『私小説 from left to right』はニューヨークを舞台に、日本人姉妹が生きづらさを抱えながら暮らす様子を描く。
『蹴りたい背中』は「ぼっち」の高校生男子と女子の噛み合わない交流を描いた作品。主人公女子の何とも言えないもやもやが主人公男子の背中を蹴りたい衝動に結びつく。
『コンビニ人間』の主人公はコンビニ店員の30代女性。生きづらさを抱えるがコンビニで働くときは社会の歯車としての存在意義を感じられると店員を20年近くも続けている。
文学の一大テーマは「生きづらさ」である。「満たされなさ」、「渇望」、「喪失」と言い換えても大差はない。
昔はミステリ小説、歴史小説、ファンタジー小説といったスケールの大きいものばかり好んで読んでいた。 しかし近頃は、今回取り上げた5冊のような等身大の人間が生きづらさを抱えつつも暮らす小説をなぜか心が必要としている。
人生は何でもあり。 幸せが訪れると決まっている訳でもなければ訪れないと決まっている訳でもない。 すべての物事は解釈次第。楽しいと思えるのなら楽しい。辛いと思うのなら辛い。 手に入れた物の輝きは手に入れた途端に失せる。
文学の中で登場人物が生きづらさを抱えて時に苦しみつつも暮らすのを読むことが薬になる日々も人生には訪れる。