声に出して読みたい日本語
『若菜集』は七五調を基本とした美しい心情描写と風景描写の詩集です。
まさに声に出して読みたい日本語です。
恋い焦がれる気持ちをロマンチックに描いた作品が大部分を占めています。
『若菜集』抜粋
狐のわざ
庭にかくるゝ小狐の
人なきときに夜いでて
秋の葡萄の樹の影に
しのびてぬすむつゆのふさ
恋は狐にあらねども
君は葡萄にあらねども
人しれずこそ忍びいで
君をぬすめる吾心
知るや君
あやめもしらぬやみの夜に
静にうごく星くづを
知るや君
小詩二首 二
しづかにてらせる
月のひかりの
などか絶間なく
ものおもはする
さやけきそのかげ
こゑはなくとも
みるひとの胸に
忍び入るなり
なさけは説くとも
なさけをしらぬ
うきよのほかにも
朽ちゆくわがみ
あかさぬおもひと
この月かげと
いづれか声なき
いづれかなしき
おきぬ
みそらをかける猛鷲の
人の処女の身に落ちて
花の姿に宿かれば
風雨に渇き雲に饑ゑ
天翅るべき術をのみ
願ふ心のなかれとて
黒髪長き吾身こそ
うまれながらの盲目なれ
おつた
若き聖ののたまはく
まことをさぐる吾身なり
道の迷となるなかれ
かくいひたまふうれしさに
情も道の一つなり
かゝる思を見よやとて
わがこの胸に指ざせば
聖は早く恋ひわたり
かくも楽しき恋ならば
などかは早くわれに告げこぬ
草枕
涙も凍る冬の日の
光もなくて暮れ行けば
人めも草も枯れはてて
ひとりさまよふ吾身かな
春 三 春は来ぬ
春はきぬ
春はきぬ
春をよせくる朝汐よ
蘆の枯葉を洗ひ去れ
霞に酔へる雛鶴よ
若きあしたの空に飛べ
酔歌
君がまなこに涙あり
君が眉には憂愁あり
堅く結べるその口に
それ声も無きなげきあり
名もなき道を説くなかれ
名もなき旅を行くなかれ
甲斐なきことをなげくより
来りて美き酒に泣け
母を葬るの歌
とほきねむりの
ゆめまくら
おそるゝなかれ
わがはゝよ
雑感
浪漫主義です。125年前の詩集ですが、人間は何も変わりません。
インターネットが発達してもスマホが普及しても変わらないものがここには詠われています。
恋に落ちて恋い焦がれてたまに叶うがだいたいは叶わず結局は別れが来る。
無駄?
人生の中で無駄でないことは何?
子供を育てること、社会貢献をすること、隣人を愛すること、家族を愛すること。
愛を受けていることに気づかずに、自分は愛されているという自覚なしに、自分から誰かを愛することは可能?
何はともあれ、人生の指針は心躍る方へ設定したい。
More Info
Britannica, The Editors of Encyclopaedia. "Shimazaki Tōson". Encyclopedia Britannica, 21 Mar. 2022, https://www.britannica.com/biography/Shimazaki-Toson. Accessed 8 May 2022.