今回は、血液検査の一項目である白血球分画をオリジナルの方法で可視化する。白血球分画は白血球の異常を分析する上で重要な項目であるが、その検査結果をイメージすることは難しい。
それをオリジナルの可視化方法で解決するのが今回の目的である。
可視化結果はこのようになる。
白血球分画とは
末梢血で全血球算定(CBC, Complete Blood Count)を行うと、血小板数(Plt)、赤血球数(RBC)、白血球数(WBC)などの項目が得られる。
CBCの際に用いる装置が自動血球計数装置である。製品の例を下に示す。
自動血球計数装置の後に、詳細を調べるために末梢血塗抹検査を行うことがある。末梢血塗抹検査では、光学顕微鏡で肉眼的に末梢血塗抹標本を調べる。
この検査を自動化した装置もある。その製品の例を下に示した。
これらの検査で白血球に関して得られる情報は、白血球数(WBC)と白血球分画である。
白血球分画の基準値
白血球数(WBC)の基準値は3,500~9,000 /uLである。白血球分画の項目と日本語名、英語名、基準値下限、基準値上限を次の表で示す。
分類 | 項目 | 日本語 | 英語 | 基準値下限[%] | 基準値上限[%] | 略 |
---|---|---|---|---|---|---|
幼若白血球 | Blast | 骨髄芽球 | myeloblast | 0 | 0 | 芽 |
幼若白血球 | Promyelo | 前骨髄球 | promyelocyte | 0 | 0 | 前 |
幼若白血球 | Myelo | 骨髄球 | myelocyte | 0 | 0 | 骨 |
幼若白血球 | Metamyelo | 後骨髄球 | metamyelocyte | 0 | 0 | 後 |
成熟白血球 | Band | 桿状核球 | band leukocyte | 0 | 5 | 桿 |
成熟白血球 | Seg | 分葉核球 | segment leukocyte | 40 | 70 | 葉 |
成熟白血球 | Eosin | 好酸球 | eosinophil | 1 | 5 | 酸 |
成熟白血球 | Baso | 好塩基球 | basophil | 0 | 1 | 塩 |
成熟白血球 | Lympho | リンパ球 | lymphocyte | 20 | 50 | リ |
成熟白血球 | Mono | 単球 | monocyte | 0 | 10 | 単 |
V-Lympho | 異型リンパ球 | atypical lymphocyte | 0 | 0 | 異 | |
Plasma | 形質細胞 | plasma cell | 0 | 0 | 形 |
これは、学生用共通基準範囲(日本臨床検査医学会設定、2011)の値である。
顆粒球の分化
好中球、好酸球、好塩基球はまとめて顆粒球と呼ばれる。
顆粒球の分化は、造血幹細胞から、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球、桿状核球、分葉核球と進んでいく。
白血球分画の可視化
白血球分画の結果はたとえば、「白血球5,000(桿状核好中球5%、分葉核好中球50%、好酸球3%、好塩基球1%、単球6%、リンパ球35%)」と与えられる。なお、この数字は基準値を参考にして作ったものである。
この白血球分画の結果を分かりやすく可視化することを考える。
項目 | 日本語 | 略 | 目安[%] | 基準値下限[%] | 基準値上限[%] |
---|---|---|---|---|---|
Blast | 骨髄芽球 | 芽 | 0 | 0 | 0 |
Promyelo | 前骨髄球 | 前 | 0 | 0 | 0 |
Myelo | 骨髄球 | 骨 | 0 | 0 | 0 |
Metamyelo | 後骨髄球 | 後 | 0 | 0 | 0 |
Band | 桿状核球 | 桿 | 5 | 0 | 5 |
Seg | 分葉核球 | 葉 | 50 | 40 | 70 |
Eosin | 好酸球 | 酸 | 3 | 1 | 5 |
Baso | 好塩基球 | 塩 | 1 | 0 | 1 |
Lympho | リンパ球 | リ | 35 | 20 | 50 |
Mono | 単球 | 単 | 6 | 0 | 10 |
V-Lympho | 異型リンパ球 | 異 | 0 | 0 | 0 |
Plasma | 形質細胞 | 形 | 0 | 0 | 0 |
白血球がもし100個あったとする。このとき、各細胞腫の個数は、百分率の値に合致する。
そこで、10×10のマスを用意し、各細胞腫の百分率に合わせて、各細胞腫の一文字略記で埋めていく。
このアイディアをExcelで実現したのが、こちらである。
なお、白血球数が5,000/uLであるとき、一マスは50個/uLに相当する。
症例その1
次に、症例の白血球分画を可視化しよう。
55歳の男性。健康診断で白血球増多を指摘され来院した。自覚症状は特にないという。身長168cm、体重65kg。体温36.6℃。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、右肋骨弓下に肝を2cm、左肋骨弓下に脾を2cm触知する。血液所見:赤血球475万、Hb 13.4g/dL、Ht 43%、白血球23,000(前骨髄球2%、骨髄球5%、後骨髄球3%、桿状核好中球12%、分葉核好中球58%、好酸球6%、好塩基球4%、単球3%、リンパ球7%)、血小板54万。(医師国家試験105B45より)
白血球数の著明な増加(23,000/uL)と血小板数の増加に注意。
幼若な白血球(前骨髄球、骨髄球、後骨髄球)が現れていることが特徴的である。また、好塩基球の増加も特徴的である。
この白血球分画を可視化した。
まず、こちらの図が10×10のマスを埋めたものである。
次に、白血球数が23,000と正常の約4倍に増加していることから、20×20のマスに拡大した図を作成した。
この拡大版と正常の図を比較すると、リンパ球と単球の個数には大きな異常はないことが分かる。
診断は慢性骨髄性白血病(CML)である。判断根拠は、白血球数の著明な増加、幼若な白血球の出現、好塩基球の増加、血小板数の増加である。
治療はイマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)である。
症例その2
もう一つ、別の症例で白血球分画を確認しよう。
こちらの症例では、白血球4,200/uL(骨髄芽球0.5%、前骨髄球1.0%、骨髄球4.0%、後骨髄球2.5%、桿状核好中球2.0%、分葉核好中球50.5%、好酸球2.0%、好塩基球0.0%、リンパ球27%、単球10.5%)という結果だった。
幼若な白血球が出現している。骨髄球と後骨髄球もしっかり存在し、急性白血病を示唆する白血病裂孔はない。
この検査結果を可視化してみた。
この症例は、巨赤芽球性貧血と診断された。ビタミンB12の筋肉内注射で治療した。
治療後の白血球分画は、白血球5,500/uL(桿状核好中球1.0%、分葉核好中球66.0%、好酸球5.0%、好塩基球1.0%、リンパ球23.0%、単球4.0%)であった。これは正常な値である。
これも可視化した。
幼若な白血球が見られなくなっている。
まとめ
末梢血の白血球分画の項目は、成熟白血球(好中球[BandとSeg]、Eosin、Baso、Lympho、Mono)、幼若白血球(Blast、Promyelo、Myelo、Metamyelo)、その他(V-Lympho、Plasma)である。
SegとLympの2種で通常80%前後を占める。Basoは1%あるかないか程度である。
成熟白血球以外は末梢血で見られないのが正常である。