鑑別診断とは
医師が問診、身体診察、検査を行うとき、考えられる疾患をリストアップしてから、疾患の絞り込みを行っていく。
考えられる疾患をリストアップすることを「鑑別診断を挙げる」という。鑑別診断は英語でDifferential Diagnosisである。
鑑別診断の際に注意すべきことは、疾患の見逃しがないよう可能性のある疾患を広く網羅的に挙げることである。
そのためには、臓器別の軸と原因別の軸という2軸で疾患を整理するとよいとされる。
たとえば、肺炎は、「肺」という臓器に生じる「感染症」である。Parkinson病は「脳」という臓器の「変性疾患」である。
VINDICATE!!!+P
鑑別診断を原因別に挙げるときに役立つ語呂合わせが「VINDICATE!!!+P」である。疾患を原因という観点で網羅的に挙げられることが長所である。
有名な語呂合わせであり、以下の記事でも紹介されている。
"vindicate"は「無実を証明する」といった意味のようである。
「VINDICATE!!!+P」の各文字は、下の表のように各原因の頭文字を示す。
- | - | - |
---|---|---|
V | Vascular | 血管系疾患 |
I | Infection | 感染症 |
N | Neoplasm | 腫瘍性疾患 |
D | Degenerative | 変性疾患 |
I | Intoxication | 中毒 |
C | Congenital | 先天性疾患 |
A | Allergy & Autoimmune | アレルギー・自己免疫性疾患 |
T | Trauma | 外傷 |
E | Endocrinopathy / Metabolic | 代謝・内分泌疾患 |
! | Iatrogenic | 医原性 |
! | Idiopathic | 特発性 |
! | Inheritance | 遺伝性 |
P | Psychogenic | 精神疾患・心因性 |
「A」が「Allergy」と「Autoimmune」の両方の頭文字を兼ねること、「E」の「Endocrinopathy」に「Metabolic」が付け加えられていることに注意。
また、3つの「!」はいずれも「I」の代用であることにも注意が必要である。この語呂合わせでは「I」から始まる原因が合計で5つあることになる。
浮腫でLet's VINDICATE
「浮腫」に対して、「VINDICATE!!!+P」で鑑別診断を挙げよう。
挙げたところ、以下のようになった。
- | - | - | 浮腫 |
---|---|---|---|
V | Vascular | 血管系疾患 | 心不全、肝硬変(門脈圧亢進)、深部静脈血栓症、上大静脈症候群、下肢静脈瘤、リンパ浮腫 |
I | Infection | 感染症 | 敗血症、蜂窩織炎、フィラリア症 |
N | Neoplasm | 腫瘍性疾患 | 悪性腫瘍によるリンパ浮腫 |
D | Degenerative | 変性疾患 | 該当なし |
I | Intoxication | 中毒 | 急性薬物中毒 |
C | Congenital | 先天性疾患 | 遺伝性血管性浮腫 |
A | Allergy & Autoimmune | アレルギー・自己免疫性疾患 | アナフィラキシー、局所性のアレルギー |
T | Trauma | 外傷 | 外傷によるリンパ浮腫、熱傷 |
E | Endocrinopathy / Metabolic | 代謝・内分泌疾患 | 甲状腺機能低下症、腎不全、水・Naバランスの異常、低アルブミン血症(ネフローゼ症候群、肝硬変) |
! | Iatrogenic | 医原性 | リンパ節郭清後や放射線照射によるリンパ浮腫 |
! | Idiopathic | 特発性 | 特発性浮腫 |
! | Inheritance | 遺伝性 | 遺伝性血管性浮腫 |
P | Psychogenic | 精神疾患・心因性 | 該当なし |
実際に分類したところ、血管系疾患に分類される疾患が多かった。
まとめ
原因別に鑑別診断を挙げるときに有用なのが「VINDICATE!!!+P」である。
これはVascular(血管), Infection(感染), Neoplasm(新生物), Degenerative(変性), Intoxication(中毒), Congenitive(先天性), Allergy(アレルギー) & Auto-immune(自己免疫性), Trauma(外傷), Endocrinopathy(内分泌疾患), Metabolic(代謝), Iatrogenic(医原性), Idiopathic(特発性)、Inheritance(遺伝性), Psycogenic(心因性)の頭文字をとったものである。