心停止とは
心停止とは、心臓が体に血液を送り出せていない状態のことである。心電図によって、以下の4種類に分類される。
- 心室細動(VF; ventricular fibrillation)
- 心室筋が無秩序に収縮している状態。
- 無脈性心室頻拍(pVT; ppulseless ventricular tachycardia)
- 異常な頻拍により、心臓から血液を送り出せない状態。心室頻拍の部分集合である。
- 無脈性電気活動(PEA; pulseless electrical activity)
- 心臓は規則的に電気活動をしているが、血液を送り出せない状態。
- 心静止(asystole)
- 心臓の電気活動がまったく無い状態。心電図は横一直線。
このうち、VFとpVTは電気ショックの適応がある。すなわち、電気ショックにより異常な電気活動を是正できる可能性がある。一方、PEAと心静止は電気ショックの適応がない。
心停止の原因
心停止の主な原因は、6H6Tで覚えることができる。すなわち、英語にしたとき頭文字がH、Tである原因がそれぞれ6個ずつある。
6H
まずは6Hを確認する。
循環血液量減少(Hypovolemia)
何らかの原因で循環血液量が減少した場合、心停止をきたすことがある。
低酸素血症(Hypoxia)
低酸素血症で心停止に至る場合がある。
低/高K血症(Hypo/Hyperkalemia)
カリウム(K)は、細胞膜の静止膜電位を決定する重要な電解質である。低K血症になっても高K血症になっても、心停止の危険性がある。
アシドーシス(Hydrogen ion)
体内の酸塩基平衡を酸性側に傾ける病態のことをアシドーシスという。アシドーシスがあれば基本的に血液は酸性に傾く。血液が実際に酸性に傾いた状態をアシデミア(酸血症)と呼ぶ。
一方、アシドーシスとアルカローシス(血液を塩基性側に傾ける病態)が同時に存在していれば、両者の影響力の大きさ次第で実際の血液のpHが決定する。つまり、アシドーシスのほうが強ければアシデミアになり、アルカローシスのほうが強ければアルカレミア(塩基血症。血液が実際に塩基性に傾いた状態)になる。
アシドーシスには代謝性アシドーシスと呼吸性アシドーシスがある。
揮発性酸(CO2)と不揮発性酸(ケトン体、乳酸など)が体内で産生され、これらが段々と蓄積されていく。揮発性酸は呼吸で排泄し、不揮発性酸は腎臓で排泄することにより、体内の酸塩基平衡が保たれている。
呼吸不全などにより揮発性酸(CO2)を十分に排泄することができなければ、呼吸性アシドーシスになる。
一方、たとえば腎不全になり、体内の酸(H+)を十分に排泄することができなければ、代謝性アシドーシスになる。糖尿病ケトアシドーシスや乳酸アシドーシスでは、不揮発生酸の産生が過剰になり、代謝性アシドーシスに至る。また、下痢により塩基性物質である重炭酸イオン(HCO3-)を喪失しても代謝性アシドーシスになる。
低体温(Hypothermia)
低体温で心停止に至る場合がある。
低血糖(Hypoglycemia)
低血糖で心停止に至る場合がある。
6T
次に、6Tを見て行く。
心タンポナーデ(cardiac Tamponade)
1枚の膜である心膜によって囲われたスペースを心膜腔と呼ぶ。心タンポナーデは、心膜腔に心膜液が貯留し、心室拡張に障害をきたした状態である。心膜穿刺により排液を行う。
緊張性気胸(Tension pneumothorax)
気胸は、胸膜腔に空気が流入し、肺が虚脱した(萎んだ)状態である。
胸膜の穿孔部位がチェックバルブ(一方向弁)として振る舞うと、胸膜腔に空気が流入するばかりで流出しない。このような病態を緊張性気胸という。緊張性気胸になると、胸膜腔内圧が異常に上昇し、呼吸・循環動態が悪化する。そして、ショック状態となり、短時間で心停止になる危険性がある。
薬物中毒(Toxins)
オーバードーズなどによる薬物中毒で心停止に至る場合がある。
急性冠症候群(coronary Thrombosis)
急性冠症候群(ACS; acute coronary syndrome)は急性心筋梗塞や不安定狭心症1、虚血による心臓突然死などを包括する疾患概念である。急性冠症候群は、ST上昇型心筋梗塞(STEMI; ST elevation myocardial infraction)、非ST上昇型ACS(NSTE-ACS)に大別して初期治療を行う。
虚血により、電気的な不安定性が生じ、VFやVTなどの不整脈が生じる可能性がある。
肺血栓塞栓症(pulmonary Thrombosis)
血栓が血流に乗って肺動脈を閉塞する疾患である。急性の肺高血圧と低酸素血症により、心拍出量が低下し、ショックや失神をきたす場合がある。
外傷(Trauma)
外傷で心停止に至る場合がある。
まとめ
心停止は心電図により、VF、pVT、PEA、心静止に分類される。このうち、VFとpVTは電気ショックの適応がある。
心停止の原因は6H(循環血液量減少、低酸素血症、低/高K血症、アシドーシス、低体温、低血糖)、6T(心タンポナーデ、緊張性気胸、薬物中毒、急性冠症候群、肺血栓塞栓症、外傷)により、挙げることができる。
参考文献
- 医療情報科学研究所編『病気がみえる vol. 2 循環器 第5版』(メディックメディア、2021年)
- 日本蘇生協議会(JRC)『JRC蘇生ガイドライン2020 一次救命装置』(https://www.japanresuscitationcouncil.org/wp-content/uploads/2021/03/BLSonlinever1.4-2.pdf)