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B型肝炎


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ウイルス性肝炎

B型肝炎

B型肝炎B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus; HBV)によって引き起こされる肝炎である。肝炎の臨床像には、急性肝炎、慢性肝炎、劇症肝炎などがある。 成人がHBVに感染する場合と、乳幼児が感染する場合とで、B型肝炎は感染経路と経過が異なる。

B型肝炎ウイルス

B型肝炎を引き起こすHBVは、二本鎖DNAウイルスである。HBVは増殖するのに逆転写酵素が必須である。したがって、B型肝炎には、逆転写酵素阻害薬である核酸アナログ製剤が有効である。核酸アナログは、ヌクレオチド(塩基+糖+リン酸)に類似した構造をもち、ウイルスDNAの伸長を阻害することでウイルスの増殖を抑制する。

HBVはHBs抗原(表面抗原)とHBc抗原(コア粒子)をもつ。さらに、HBc抗原の余りとして、感染細胞から血中にHBe抗原が放出される。HBc抗原は血中では検出されず、HBe抗原として血中で検出される。

HBs抗原に対するHBs抗体は中和抗体であり、感染防御能を有する。

成人

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成人のHBV感染

成人のHBV感染の場合、感染経路は、血液感染および体液感染の水平感染である。感染経路の具体的な例として、性交渉、針刺し事故、注射器の使い回し、輸血、ピアスの穴あけを挙げられる。水平感染した成人の7、8割は不顕性感染であるが、2、3割が1か月から半年の潜伏期間を経て急性肝炎を発症する。急性肝炎の発症者のほとんどは、肝炎が沈静化し非活動性キャリアとなった後、回復期を迎える。

しかし、急性肝炎発症後、慢性肝炎に移行する患者や、劇症肝炎を発症する患者も一部にいる。

感染経路に針刺し事故があるため、医療従事者はB型肝炎ワクチンを受け、針刺し事故による感染危険性を下げる。

乳幼児

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乳幼児のHBV感染

乳幼児のHBV感染の場合、感染経路はおもに、垂直感染(母子感染)である。すなわち、HBs抗原陽性の母親から生まれた場合に乳幼児が感染する可能性がある。母子感染は近年の対策により著しく減少している。

垂直感染した乳幼児の9割以上は、ウイルス排除が不十分のため持続感染となり、無症候性キャリアになる。無症候性キャリアが成長し、免疫能が発達すると、HBVに対して免疫反応が起き、肝炎が発症する。無症候性キャリアの9割近くは一過性の肝炎であり、じきに肝炎は沈静化し、非活動性キャリアとなる。その後、一部の症例では回復期に達する。

一方、1割近くの無症候性キャリアにおいては肝炎が持続し、慢性肝炎に移行する。

抗原・抗体

B型肝炎では、いくつかの抗原と抗体が検出される。

  • HBs抗原・抗体
  • HBe抗原・抗体
  • IgMHBc抗体
  • IgG型HBc抗体
  • HBV-DNA

HBs抗原は表面抗原である。HBs抗体は中和抗体であり、HBVが排除され治癒した状態、あるいはワクチン接種後であることを示す。HBe抗原はウイルス複製の活動性を示す。HBe抗原が陰性化し、HBe抗体が陽性化することをHBeセロコンバージョンと呼ぶ。HBc抗体は、IgM型とIgG型の2種類に区別される。HBc抗原は血中では検出されないことに注意。

B型急性肝炎

B型急性肝炎は、全身倦怠感、黄疸、肝腫大を主要症状とする。一般的に、自然治癒傾向があるため、保存的治療が主である。安静臥床にして、肝血流量を増やすのがよい。

診断は、HBs抗原(+)とIgMHBc抗体(+)で行う。

薬物療法を行う場合は、核酸アナログ製剤のラミブジンを投与する。

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ラミブジン

B型慢性肝炎

慢性肝炎は無症状、あるいは、数ヶ月前からの全身倦怠感である。慢性肝炎は肝硬変や肝細胞癌に移行することがある。

B型慢性肝炎の診断は、HBs抗原(+)を用いて行う。

慢性肝炎の治療では、主にPeg-IFNまたは核酸アナログ製剤を用いる。まず、最初に検討するのはPeg-IFN治療である。インターフェロンは抗ウイルス作用をもつサイトカイン蛋白である。そして、Peg-IFNはインターフェロンポリエチレングリコール(PEG)を結合させて、薬効を安定させた薬剤である。

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ペグインターフェロンアルファ-2a(R:インターフェロン

Peg-IFN不適応例などで、核酸アナログ製剤の使用を考慮する。主に使う核酸アナログ製剤は、エンテカビル(ETV)、テノホビル(TDF)である。

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エンテカビル

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テノホビル

原発肝細胞癌の原因

原発肝細胞癌の10~15 %がHBVによるものである。

B型肝炎ワクチン

新生児・乳児と、成人用のB型肝炎ワクチンがある。B型肝炎ワクチンは不活化ワクチンである。成人用のB型肝炎ワクチンは、医療従事者などのHBV感染リスクが高い者が対象である。0、1、6か月後の3回接種する。

まとめ

B型肝炎は二本鎖DNAウイルスであるHBVによって引き起こされる肝炎である。成人がHBV感染した場合、一部の症例で潜伏期間の後、急性肝炎を発症する。急性肝炎は沈静化し非活動性キャリアとなり、その後、回復期を迎える。乳幼児がHBV感染した場合、無症候性キャリアとして過ごした後、多くの症例で一過性の肝炎を起こし、非活動性キャリアとなる。

急性肝炎と慢性肝炎では、各種抗原・抗体の変化の経過が異なる。

慢性B型肝炎の治療薬はPeg-IFNと核酸アナログ製剤である。

参考資料