今回は,獲得免疫の基本をまとめます.自然免疫は抗原に非特異的な免疫反応ですが,獲得免疫は抗原に特異的な免疫反応です.すなわち,獲得免疫では免疫細胞が抗原を認識することがポイントとなります.
獲得免疫に登場する免疫細胞は樹状細胞,マクロファージ,B細胞,CD8陽性T細胞,CD4陽性T細胞です.これらの免疫細胞は抗原を提示する側と提示される側に分けることができます.抗原を提示する側の免疫細胞は樹状細胞,マクロファージ,B細胞です.これらの細胞は抗原提示細胞(APC)と呼ばれます.一方,抗原を提示される側の免疫細胞はCD8陽性T細胞とCD4陽性T細胞です.また免疫細胞ではない一般の細胞として,感染細胞も登場します.
これらの細胞の抗原提示の関係をまとめると,以下のようになります.この図式は河本宏『ウイルスに対する免疫応答の仕組み(2)│コロナ制圧タスクフォース』を参考にしました.抗原提示の関係は①,②,③の3種類があります.[ ]で囲んだものは細胞を示し,囲んでいないものはMHC分子です.
MHC分子は,細胞表面にある分子であり,この分子の特定の箇所に抗原を乗せることで別の細胞に抗原提示することができます.MHC分子にはクラスIとクラスIIの2種類があります.MHCクラスI分子は赤血球以外のほとんどの細胞が細胞表面に出しています.一方,MHCクラスII分子は抗原提示細胞(樹状細胞,マクロファージ,B細胞)のみが細胞表面に出しています.逆に言うと,MHCクラスII分子を細胞表面に発現している細胞を抗原提示細胞と呼ぶというわけです.各図式では,矢印の根本の細胞が矢印の途中のMHC分子を用いて,矢印の先のT細胞に対して抗原提示するという流れを示しています.
①[DC] → class I → [CD8+ T cell] ← class I ← [infected cell]
②[DC] → class II → [CD4+ T cell] ← class II ← [MΦ]
③[DC] → class II → [CD4+ T cell] ← class II ← [B cell]
【略称】
DC:樹状細胞
CD8+ T cell:CD8陽性T細胞,キラーT細胞,細胞傷害性T細胞,CTL
CD4+ T cell:CD4陽性T細胞,ヘルパーT細胞
infected cell:感染細胞
MΦ:マクロファージ
B cell:B細胞
class I:MHCクラスI分子
class II:MHCクラスII分子
①,②,③の各関係の流れは以下の通りになります.①と②は細胞性免疫であり,③は抗体を産生する液性免疫です.
①細胞性免疫その1
樹状細胞がMHCクラスI分子に抗原を乗せて,CD8陽性T細胞に抗原提示します.感染細胞が同一の抗原をMHCクラスI分子で抗原提示している場合,このCD4陽性T細胞はこの感染細胞を認識して攻撃します.
②細胞性免疫その2
樹状細胞がMHCクラスII分子に抗原を乗せて,CD4陽性T細胞に抗原提示します.マクロファージが同一の抗原をMHCクラスII分子で抗原提示している場合,このCD4陽性T細胞はこのマクロファージを認識して活性化します.
③液性免疫
樹状細胞がMHCクラスII分子に抗原を乗せて,CD4陽性T細胞に抗原提示します.B細胞が同一の抗原をMHCクラスII分子で抗原提示している場合,このCD8陽性T細胞はこのB細胞を認識して活性化します.活性化したB細胞が抗体産生を行います.
免疫は,様々な免疫細胞や分子が登場するため,複雑で分かりにくくなってしまいます.今回のような図式で,メインストーリーをできるだけ明快に理解したいものです.今回もお読みくださりありがとうございました.
参考ページ
河本宏『ウイルスに対する免疫応答の仕組み(2)』(コロナ制圧タスクフォース,2020年)