恒星間ボトルメール

Interstellar Message in a Bottle

きれいなほしをみて ひとりぼっちでさみしくなったりしてるときに

 読書の秋ということで,読書をテーマとした新書を読みました.読んだのは,齋藤孝『ネット断ち』(青春出版社,2019年)です.副題は「毎日の「つながらない1時間」が知性を育む」です.本書の主張は,ずっとSNSで誰かとつながっているではなく,毎日少なくとも1時間はつながらない時間を作り,「沈潜」するのがよいということでした.「沈潜」の時間で深く味わうのがよいものの例として筆者はドストエフスキー三島由紀夫の文学作品や思想家の著作を挙げています.あらすじを読むのではなく,過去の偉大な知性の作品にどっぷり浸ることで教養が育まれると述べていました.また,呼吸を意識したり運動をしたりするなどして,現代人がスマホを見てばかりで失いつつある「身体性」を取り戻そうとも述べています.

 眠る前1時間は電子機器を触らないほうが疲労回復によいということと考え合わせると,眠る前に「ネット断ち」をするのが良さそうですね.

 齋藤氏が説く「沈潜」と通ずる考えが,2002年リリースのpal@pop作詞『Welcoming Morning』に登場しています.本記事のタイトルはその一節から取りました.その前後をここに引用します.

 

きみが「やさしさ」とよぶぼくの「ちから」は
たとえばきれいなほしをみて
ひとりぼっちでさみしくなったりしてるときにつよくなってゆくんだ

それは
こねこをだいたり
ししゅうをよんだり
えのぐをえらんだり
ひとりでくちをつぐんでじっとだまってるときに
ぐんぐんとふくらんでゆく「ちから」なんだ

 

 ここに,一人で静かに過ごす時間が心を豊かにするという思想が見られます.この曲は2002年とまだインターネットが一般的になる前の時代にリリースされていますが,ここで表れている思想は今の時代に一層重要になっています.

 また興味深いことに,齋藤氏が説く「沈潜」と対立する考えが,ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』(筑摩書房,2016年)で提示されています.齋藤氏は文学作品を通読することが重要と主張します.一方,『読んでいない本について堂々と語る方法』では,精読することよりも本と本とネットワークを意識してできるだけ網羅的に名作に触れるのがよいという考えが示されています.,一冊一冊の本に対しては,あらすじだけを読んだり斜め読みしたりするなどして対応することが勧められています.なぜなら,いわゆる名作を一冊一冊読んでいく時間は人生には原理的にないからです.

 両者の考えは一見対立するように見えますが,実際のところは対立しないのかもしれません.すなわち,広大な本の世界で迷わないようにあらすじや斜め読みを積極的にすると同時に,人生の糧にしたい本では精読を行うというバランスのとり方がありえるはずです.とりあえず,今日もノートPCのキーボードを叩きながら現在0時を回ろうとしている中,明日こそは寝る前にネット断ちをしようと決意して,筆を擱きます.

 以下蛇足として,『ネット断ち』の文字数計算を付記します.
 本書は188ページ,1ページあたり15行,1行あたり40文字であった.それゆえ,188×15×40を計算して,紙面には最大で11万2800文字入る.その80%が実際に文字で埋まっていると考えて,文字数は9万240文字と求めることができる.よって本書の文字数は8万字から9万字程度と推測できる.